得意技は、優れた身体能力とダンスで培ったリズム感から繰り出すカウンター攻撃。
精神面での成長も遂げた向江彩伽は、少女の時から夢見る大舞台での活躍を目指す。

2024年は、アスリートの多くが憧れる、夢の祭典が開かれる。フェンシング・サーブルの向江選手は、確かな決意を胸に選考レースに立ち向かう。昨季は長年課題だった壁を越え、今までで最も勝てたシーズンだったと振り返る。「海外の大会は2日間に分けて開催され、初日が予選、2日目が本選というケースが多いんです。昨年は7大会中6大会も本戦に進むことができました。その結果に満足してしまった自分もいたので、もっと成績を伸ばして、憧れの舞台でメダルを獲得できるよう、日々練習に励んでいます」

アジアユースで優勝したことでおぼろげな夢が目標に変わった

向江選手にとって世界最大のスポーツの祭典に出場することは、フェンシングを始めたときからの夢だった。
外で遊ぶのが大好きで、将来の夢はダンスの先生。福岡でのびのび暮らす普通の女の子だった彼女は小学校高学年の時、友達の影響で将来性のある子どもの発掘と育成を目指す「福岡県タレント発掘事業」に参加する。そこでフェンシングと出会った。
「最初はスポンジの剣で相手を突いたり切ったりしていたんですけど、剣を使う競技ってあんまりないから、すごく楽しくて」小学6年生のとき、福岡県で合宿していた日本代表チームのコーチがタレント発掘事業の様子を見学に来た。そこで彼女はフェンシングの適性があると声をかけられ、JOCエリートアカデミーに誘われた。JOCエリートアカデミーは、東京都北区にあるトップアスリートを育成する組織。
英才教育の道が目の前に広がっていることに彼女はときめいたが、両親や10歳差の妹と離れたくなかった。しかし、父から“やらない後悔よりも、やる後悔”と背中を押してもらい、上京することを決断した。アカデミーには中高の6年間在籍し、学業以外はスポーツ漬けの毎日を送った。厳しい練習はもちろんのこと、慣れない寮生活に戸惑った。コーチからは競技面だけでなく生活面でも指導を受けた。
「最初はホームシックになりましたが、スポーツの世界を知らなかったので、この時にいろいろなことを鍛えられて、アスリートの土台ができたのはすごく良かった」フェンシングを本格的に始めておよそ2年で、彼女は中国・北京で開催されたアジアユースのチャンピオンに輝く。
「決勝の相手が中国人選手ということもあって大歓声に包まれたアウェイの中で勝った。これが世界最高峰の大会だったらと想像した時、もっと震えるんだろうなと興味が湧きました。それからフェンシングにのめり込むようになったんです」大舞台に日本代表として出場してメダル獲得を果たすことが、夢から明確な目標として胸に刻まれた瞬間でもあった。

1.あどけなさが残る小学5年生の時。福岡県タレント発掘事業に参加し、大きな夢を抱き始めた 2.中学3年生で勝ち取った初のアジアチャンピオン。夢が明確な目標へと変わった瞬間

大ケガをしたことで知った親の愛と周囲の温かさ

3.大事な選考レース直前、左膝の前十字じん帯を損傷し1年間の競技離脱を余儀なくされた

2018年、代表選考レースが始まる1カ月前、向江選手は試合中に大ケガを負っ た。手術を受け、1年間リハビリが続き、選考レースは間に合わなかった。自国開催 という、おそらく一生に一度の舞台に挑むことすらもできずに終わった。
肉体だけでなく心にもダメージを負った彼女のもとに、母が福岡から駆けつけた。「目標を叶えられず謝ると『謝る必要はないよ。今回は重なってしまったけど、次もあるでしょ』って。親の愛を感じました」普段はライバルとして切磋琢磨する選手たちや、当時通っていた中央大学理工学部の先生から温かい声をかけてもらったりサポートを受け、周囲の優しさを感じた。
「ケガをする前は応援のありがたさを十分に分かっていなかった。その経験が自分の 中ではすごく大きかったです」
大学卒業を機に競技生活に区切りをつけるアスリートが少なくない中、彼女の脳裏に引退という2文字は一切なかった。
「中学生から北区にいた私は、競技活動を通じてこの町に恩返ししたり、スポーツの力で何かを伝えたいと思って、地元を大切にする城北信用金庫に魅力を感じました」2021年4月に入庫し、社会人アスリートとしての新たなスタートを切った。

対戦相手を敬う気持ちを胸にみんなのために全力を尽くす

今年の夏の大舞台で、日本の女子サーブル団体は出場への期待が高まっている。その出場枠は4人。選考レースが大詰めを迎える中、向江選手は有力候補の一人だ。「こんなチャンスは最初で最後。もう頑張るしかないと思っています」現在、彼女は味の素トレーニングセンターでフランス人コーチの指導を受けている。技術面のアドバイスだけでなく、“相手を敬え”という教えにハッとしたという。「勝ちたいという気持ちだけだと、点を取られたときに感情的になり、冷静さを失ってしまう。でも、相手を敬う気持ちがあれば、すぐ分析に移ることができるんです」またアスリートとして勝利を追求するだけではなく、人としても成長したいという思いが、今の向江選手の目的になっている。
メダルに対する考え方も少女時代とは少し変わった。
「今の私は自分のためというよりも、応援してくれる人に恩返しするためにやっていることのほうが大きい。メダル獲得の報告をして、喜んでもらえたら」みんなの笑顔のために戦う気持ち。それが向江選手の新しい力になっている。

上司や同僚の応援に大きな力をもらい、信頼するコーチの指導で日々成長し続ける

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